独り言は大声で。

完全不定期で、受験の話をしたり旅行の話をしたりしていきます。たまに覗きにくるといいことあるかも。

211217 二月の勝者シリーズ①

 前に「見ない」と宣言したドラマ「二月の勝者」ですが、あまりにも生徒が見ている(視聴率ほぼ100%)なのでもはや「教養」として見ざるを得ない状況になったために試しに見ることしました。すると思いの外面白く、とりあえず4話までは全部見てしまいました。出来事のそれぞれが「あー、こんなことあるよね」と思うものばかりでよく取材して作られているんだなあと感じた次第です。今日は「ああ、あるよね」と思ったことについていくつか書いてみることにします。

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例によって写真と本文は関係ありません。

佑星くんの偏差値(第1話)

 6年生から受験勉強をスタートして、最初のテストで偏差値40を取った三浦佑星くん。これは学年を問わず本当によくある話ですね。「小学校でトップです」と言いながら受験塾にやってきて入塾テストを受けて「大爆死」する子。生徒と保護者からしたら大失敗ですが、黒木先生も言っていた通りこの結果は悪くないと思います。「全国統一小学生テスト」みたいな一般生も対象にしたテストでこれだとさすがにマズいですが(それでも絶望するほどではないか)、この手のクラス分けテストなら偏差値30とか35とかでも、講師からしたら「最初はそんなもんだよ」という感じです。

 今まで中学受験の勉強をしていなかった子が塾に入るとすると、まず最初にぶち当たるのが「漢字と計算の壁」だと思います。例えば新5年生の2月から入塾したとすると、周りの子たちは「16×3.14」とか「16×16」などといった計算(みなさんは暗算できますか?ちなみに答えは50.24と256ですね)は0.2秒くらいで答えを出しますが本人にそんなことはできません。講師から見たらできないのは当たり前(だってまだやっていないんだから)なのですが、特に真面目な子ほど落ち込んで帰っていくものです。ちなみに講師はそれをわかり切っているので帰る前に必死になって励ましています。もちろん本人のためというのもありますが、そうしないと「うちの子、すごくショックを受けて帰ってきたんですけど…」みたいな電話がかかってくることになるのでここで潰しておいた方が良いという事情もあるのです。たまに「大丈夫!とにかく大丈夫だから!」とか何が大丈夫なのか全くわからない励まし(?)をしている人もいますが、何も言わないよりはマシというものでしょう。でもこれじゃちょっと前に話題になったタマホームの社長と同レベルですね。

 漢字の壁については、ぼくが5年生の時に5APIX(例によって仮名)の夏期講習に参加して周りの生徒が全員「山川草木」と漢字で書けることに心底驚いた記憶があります。漢字はやればできるのですぐに追いつきましたが。それよりSAP1Xは国語の先生が机を蹴って暴れていたことばかり印象に残っていたので入るのはやめました。暴れるのはダメ、ゼッタイ。

順くんのお父さん(第5話)

 これはうなずきすぎて首がもげるかと思いました。個人的に中学受験生のパパが言ってはいけないセリフの第一位は「どれ、見せてみろ」だと思っているのですが順くんのお父さんは見事にこの地雷を踏んでいます。あとは「塾講師なんかに何がわかる」も最悪ですね。とりあえずこの二つについて。

 お父さんが「どれ、見せてみろ」と言ってしまうのは多くの場合、子供が算数をやっている時ですが、このセリフは絶対に言うべきではありません。なぜなら、この後の展開は大体の場合において「連立方程式」「移項」「これをxとおくと」「xの2乗が」などと小学生が聞いたことのない言葉のオンパレードになり、挙げ句の果てに「sin150°が…」「ベクトルに分解すると…」まで進化し(流石にここまで行く人はなかなかいませんが)、「なんでこんなことわからないんだ!」「教わってないもん!」「それはお前の勉強不足だ!」などと言い合いになり、最終的には大規模な家庭内戦争が勃発するからです。

 ではこのタイプのお父さんは何を間違えているのかというと、「数学と算数を混ぜている」という点に尽きます。そもそも小学生に「連立方程式」と言っても通じません。連立方程式は一般に「消去算」と呼びます。やっていることは全く同じですが、小学生には通じません。同じように、移項を理解している小学生はほぼいないし(移項してマイナスが出たら小学生には扱えません)、求めるものをxと置くこともほぼしないし(大体○か□を使う)、「2乗」という言葉は小学生の辞書にはありません(「同じものを二回かける」と言う)。これらの言葉や手法は全部数学の話なので、小学生に算数を教えるときにやってはいけないのです(そしてこれはパパのありがちな失敗であると同時に新人講師のやりがちな失敗でもあります。ぼくも昔はよくやっていたなあ)。小学生は「塾の先生とお父さんの言っていることが全然違う」ということだけでも不安になるものなので、お父さんはとにかく勉強の中身については口出ししない方が無難だと思います。これは余談ですが、前に「主人が子供に勉強を教えるといつも喧嘩になるんです。今も喧嘩してるんですけどどうしたらいいですか?」みたいな電話がかかってきて腰を抜かしたことがあります。親子喧嘩の真っ最中に「塾に電話しよう!」と思いつくお母さんは大物ですね。腰が据わっているというかなんというか…。

 次は「塾講師に何がわかる」ですが、子供の前で塾を貶すことは(たとえそれが事実でも)言ってはいけないと思います。別にこれは自分の悪口を言われたくないということではなくて、そもそも島津パパは「何がわかる」とか言っていますが、受験については間違いなくパパより先生の方がわかっています。持っているデータ量が違うので当たり前です。その上で、子供の前で塾を貶すことは子供を不安にさせる以外の効果をもたらさないのでやってはいけないと思います。

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最近のマイブーム(唐突すぎる飯テロ)

 それより何より、島津くんのエピソードで激しく同意したのは「偏差値54の問題を解いて半分しか取れなかった」という件についてです。本当によくできていると思います。この「勝手に過去問をやる」も「半分しか取れない」も「それを見た親が怒る」も「塾にクレームが来る」もほぼ毎年発生する事件です。大体の場合は夏期講習の後半くらいに「基礎ばっかりで応用も大事だと思うので過去問をやらせたんですが半分切ってました!志望校変えます!」みたいな話が湧いてきて講師はニヤニヤしながら「おお、今年の夏も終わりだなあ」とか思っています(笑)。「応用も大事って、それってあなたの感想ですよね?」とかひろゆきみたいことを言ってもいいのですが、そんなわけにもいかないので「そんなん当たり前やろ」というようなことをオブラートに包んで暴走を止めるまでが毎年の恒例行事ですね。このドラマだと夏期講習の真ん中に夏期合宿があるのだと思いますが、夏期講習の前半に過去問をやっても点数が取れるわけがないというのは(講師にとっては)キリンが肉を食べないのと同じくらい当たり前です。ほんとにこのパパはダメだなあ。

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最近、家族が増えました。

 そんなわけで、今日は二つのトピックについて思うことを書いてみましたがいかがでしたでしょうか。次は「あれ?と思ったこと」について書いてみることにしようと思っています。よくできていると言いつつちょっとおかしいところもあるんですね。